時のながれ

今年も4月10日が訪れ、アメリカについてから28年目を迎えることができました。時はアット言う間に過ぎてしまっ、というのが実感です。　

時の流れ、其れは親、そして御世話になった方々が次々他界していくことにより感じるようになります。雲の初まりがどこでどこで終わるのか、風の初まりがどこでどこで終わるのか、誰にもわかりませんが、人間には生と言う始りと死という終りが厳然とひかえており、私達は生かされているその期間、時の流れという定めのなかで人生を送っているようです。

その時の流れは、私達に喜び、悲しみ、苦しみをセットで提供,　私達にそのすべてを使い切るように要求しているかのようです。喜び、悲しみを使いきっても、苦しみも使いきる必要があり、悲しみ・苦しみを使いきっても喜びも使いきらなければなりません。風に漂う憐れな命にみえながら、その実誰かがその風をコントロール、また避難所をもうけていてくれるせいか、人生はヤッパリ良かったと思わせる何かを私達に感じさせてくれます。

アメリカでの２８年、その間いろいろな事がありました。日本の私の小学校が廃校。思いでのあるものが姿を消すということほど寂しさを感じさせるものはありません。然し本日、潰れたものと思っていた昔私が勤めていた会社が存続していた事を知り、感激で胸がいっぱいになってしまいました。　

時のながれは、思い出を作り、悲しみを忘れさせ、友をつくってくれるようです。アメリカでの28年を振り返り、思いでの出来、思いでの人々，懐かしいイベントを思い起こすことにより、時の流れが私にとって何だったの、そして私に何を教えてくれたのか、私なりの歴史の一端を覗いてみたいと思います。短い時間おつきあいをお願いいたします。

強いアメリカから強さを誇示せざるをえないアメリカへ
当時のアメリカは自信と力に溢れた国でした。皆明るくチャレンジ心に富んでおりました。私が奇妙奇天烈な商品を販売しながら能書きを並べても、何らおじける事無くWhy not!　とすぐに試したものです。今はすぐいやな響きを持つ　”Come on!”を口にし、新しい事や新しい物にチャレンジするような姿勢はありません。

昔は外国人に対してもとても親切で、知らない人に対してもとても面倒見が良かったものです。金のあるなしに関わらずとても大様だった気がいたします。然し今では経済不況,・生活苦の為か、そのように包容力のある行為は影を潜めてしまったようです。世界に対しても,昔は堂々自分の主張を押し付け、それが他国にとって必要な事であるからそうするのが良い、といった使命感的な物をもっておりました。力と富を持っているという自信、世界一の国・世界のリーダーであるという自負心、そう言ったものがあればこその善意の行動でした。世界もそれを率直に受け入れておりました。しかし、情勢が変わった今、アメリカは自分の力を誇示していかなければリーダーとしての位置を保持していくことができなくなったようです。アメリカの存在根源である自由を認めたがゆえ、内部が多岐の自由に分断され、それゆえ昔のように一定の方向性を持った力を発揮できなくなってしまったようです。昔の強いアメリカ、包容力に溢れたアメリカを知る一人として、とても寂しい思いに駆られます。

在米日本人の心の故郷リトル東京
大変貌最初見たときまるでメキシコ人の町のような古めかしい建物ばかりの町でした。えっ，これが日本人町！とびっくりしたものです。その後町にはいろいろ新し、そして大きなビルがたてられ、外観はまったく昔とは異なり見栄えのする町に変貌しました。然しそれにもかかわらず訪れる人間の数は年々下降の一途をたどっているようです。特徴が無くなってしまったの、それとも根本的な町おこしプランが無いためかわかりませんが、実にさびしいかぎりです。トーレンス・ウエストLA,・コスタメサと言った新しい日本人町があちらこちらにできた為というのが一般的にはいわれております。

在米日本人の楽しみの増加
昔は県人会のピクニック・ダンスパーティ・ピアノバーが楽しみでした。　今では日本語テレビ・　ラジオ・情報誌が普及、娯楽が大幅に増えた他、情報は日本と同じスピードで動きまわっております。　このほかビデオレンタル・カラオケの普及で日本人の楽しみは一層ふえました。　

性能アップ・ファッションアップ・危険アップの車生活
昔は傷だらけのぽんこつ車があちらこちらを走っておりました。　フリーウエイ上で炎上中の車、　走行中メカニカルトラブルでエンコした車を見ることはしょっちゅうでした。　今は圧倒的に新車が多く、なかでも日本製小型車,・SUVがおおく、走行性が良い為か割り込み運転,・蛇行運転・超高速で運転する人が多くひやひやしております。

英語オンリーから多言語社会へ
昔は英語ばかりで、他国語、特にスパニッシュで話すと英語を使えといわれていたものです。　今ではラテン系の人間があちらこちらの職場に進出、おかげでスパニッシュが大きく顔をきかせており、政治家もビジネスもスパニッシュを無視して通ることができなくなりました。

パパママスタイルから形態を整えたビジネスへ変貌を遂げた日本人ビジネス
昔はガーデナ－さん、夫婦で経営するスモールビジネスが主流で、所謂生活費捻出タイプのビジネスばかりでした。　アレから日本人社会にもいろいろな時代の流れがあらわれ、日本の繁栄、中堅及び大手日本企業のアメリカ進出に伴い最新の日本や雇用の増大がもたらされ、お蔭で日本人社会の生活レベルはアップ、ライフスタイルも豊かなものになってきました。　然し心の余裕の発生に伴い,　所謂ハングリー精神が後退、ダイナミックさを失った社会が現出してきております。

留学生・遊学・落ちこぼれに眉をひそめる日系社会
社会が裕福になれば当然落ちこぼれがでてきます。　昔は散見する事もできなかった無責任日本人、犯罪人日本人も登場、　精神異常に陥った日本人も見られるようになり、日本の親の知らないところで、色々な悲劇が発生しているようです。　昔の様にアメリカで学んだものを持ちかえる人は少なく、アメリカ滞在が時間の無駄に終わる若者や中年者の輩出は今後の心配の種になるはずです。

日本食の普及
昔アメリカ人にとってはスキヤキ・鉄板焼きが、日本人に取っては定食屋が日本食でした。　彼らの反応は、生の魚を食べる？　げ～という感じでしたが,　今や寿司・刺身をアメリカ人が好む時代になりました。　勿論まだまだ一部アメリカ人ですが、そのような動きがはっきりとみえます。昔求人広告ではキッチンヘルパー募集と言うのが目立ちましたが、今では寿司職人募集になってしまったようです。寿司の展開が上手くいっているおかげで、アメリカで一旗挙げようと考えている人々に手っ取り早い方法を提供できる様になったというわけです。

他のアジア人との交流
韓国人・台湾人・中国人・ベトナム人・タイ人・フィリピン人といった他のアジア人が日本人社会に頻繁にを訪れるようになり、日本人の彼らへの理解，叉，彼らの日本人への理解が深まってきているようです。居酒屋で飛び交う色々なアジアの言葉、実に素晴らしい響きをもっております。

日本人居住地域の移動、拡散
昔日本人は農業従事者の住まいを中心にコミュニティ－を構成しておりましが、生活レベルアップ、二世・三世の登場、日本からのビジネス進出にともない、居住地域はあちらこちらにちらばり、その分日本人と他の人種の接点が増えてきております。　移民のパターンである固まって助け合う小さなコミュニティ－依存社会から、アメリカ社会への融、是が新しい日本人社会の動きです。

御世話になった方々
渡米以来数限りない方々に助けられました。　然しそのうちの多くの方がすでに他界、次ぎに後続日本人を助けるのはお前の番だぞ、と言われているような気がいたします。　日本人社会は足の引っ張りあいだ、といわれておりました、現実は全くその逆でした。　日系社会が伸びてきたエネルギーの源だった気がいたします。　御世話になった方々のご冥福を御祈りしたいと思います。

私の足としてとことん頑張ってくれた車たち
28年間に、覚えているだけでも３５台以上の車を潰してしまいました。今でこそ走行距離は１日200マイル未満、年間10万マイル未満ですが、昔は５００マイル、８００マイルはしょっちゅうで、年間10万から20万マイルも走っておりました。其の為新車であっても支払いが残っているにも関わらず立て続けに一年しか持たず、安い中古車を最大一年で乗り捨てる方針に変更、捨て値で買ってはエンジンとトランスミッションだけ修理、使いきる事にしたのです。短い車で一週間、叉、交通事故で大破、そのまま御釈迦も6台と実に忙しい入れ替わりでした。お蔭で色々なビジネスがたちあがり、成功できたのです。ありがたい事です。

私と一緒に頑張る仲間
ビジネスは人の協力なくして伸びることは絶対不可能です。私は人を得るのに恵まれました。　私がしなければならない宿命的役割がある、だからこそ私の仕事を助けるのにぴったりの人々を派遣してもらっている、そのような気がいたします。

夢と言う名の私のわがままを心から支え、励まし続けた身近な方々
日本に置き去りの親、子供、弟、アメリカのエックスワイフ、ガールフレンド。私のおかげでどれほどの負担とストレスを被った事でしょうか。其れだけの犠牲を出した以上、私の取るべき道はただひとつ、総てが報われるだけの仕事、私に与えられた役割の実践、其れへの全力投球以外に皆に応えるすべはありません。身近の人々のサクリファイスの大きさこそ、私が肝に命じなければならない事、また、チャレンジへの大きさを感じます。

時のながれ、振りかえって見て初めて気づく自分の生き様。そして人生のすばらしさ、人のすばらしさ。流れは、焦る事、欲張る事を忘れさせ、今に生きる大切さ、そして与えられた人生に対してどう生ききるか、其れを考えて生きるようにと常に教えてくれているようです。　

人生、なるようにしかならない、のではなく、そのようになっているからそうなる、そのような気がいたします。